マチルダが奇蹟を起こす時、
きまって閃光が走り、虹色の螺旋が見える。
私の真ん中が熱くなって、
なにかプラグのようなものがすーっと天に向かって伸びていき、
どこかはるか遠くの、
宇宙の彼方の、
ホストコンピューターのコンセントに、かちっ、とはまる感じ。
魔法が「効いた」と実感するのは、そんなとき。

ニューヨークへ入り、しばらくしてから
「Wicked」(ウィキッド)というミュージカルを知った。
現在ブロードウェイで公演中。3年目の作品だ。
調べたら、私が前回マンハッタンから帰国した直後からの公演開始だった。
「どうしても観たいっ! ぜったい観なくちゃ!」と思った。強く。強く。
だって、魔女の話だよ。
これ、どうよ? できすぎじゃない?
今このタイミングで、
ニューヨークへ来て、
ブロードウェイで私が魔女の話を観るんだよ!
びっくりしちゃったねー
これが宇宙からのサインじゃなくて、いったいなんだってゆーんだよっ?
でもすでにチケットは数週間先までソールドアウト。
当日半額販売の「チケッツ」にも出ない。
動くのが遅すぎた。
たっきーやまきちゃんが来てから一緒に行こうと思って、のんびりしていたのだ。
ミュージカルのチケットくらい、なんとかなると、気楽に考えて。
なんともならないことを知った時の愕然具合いを想像してください.....
日本でどうして調べてこなかったのか、とか
ニューヨーク入りしてすぐチケット予約しなかったのか、とか
そりゃもぉいろいろ後悔したけどね。今からじたばた考えたってもう遅い。
しかし諦めるわけにはいかなかった。
これだけは。
これだけは!
どうしても。
まず認めたことは、自分が失敗したのだということ。
サインを見逃したのだ、とういうこと。
思えば私は日本で、他のことに気をとられ、自分のことをおろそかにしていたのだ。
そんな時はきまってサインを見逃す。
もうなんべんも繰り返してきた。なんべんも。
なのに、まただ。
もう私はほとほと自分がいやになった。死んで消えていなくなりたいくらいに、だ。
徹底的に自己嫌悪に落ち入った。
もう徹底的に。
自分を呪った。
でも、呪うなんて。 よくないよ、したくない。
だったらどうすれば?
変わる、しかない。
よし。変わろう。 じゃ?どんなふうに? どうなりたい?
「Wicked」が観れない自分から、観れる自分に。
もうそれしかないんだよ。 どこをどうしたって。 それ以外はない。
もう一度自分を好きになるには、もうその1本道しかない。
そうと決まればあとは早い。 実行するのみ。
手段はどうする?
祈りだよ。いのり! 心から反省して、天に祈るしかないだろ!
こんな時、祈りは力を持つ。 そしてもっとも有効な手段だと、私は信じる。
それこそが「魔法」の力だと思うから。
1年半修行してきた成果を試すいいチャンスなような気がしてきた!
暗黒のなかに、一点の光。 希望が見えてくれば、心が回復した印。
パワーを取り戻そう。
まきちゃんと相談。
今から「Wicked」を観る方法はふたつ。
ひとつは、
キャンセル待ちの列に並ぶ。
こちらは確実だけど、当日キャンセルが出なければ何時間並んだところで水の泡。
もうひとつは、
ラッシュチケットの応募に参加する。
これは、開演2時間前に劇場の前で抽選が行われる。
抽選に当たった約10名ほどは、たったの25ドルで観劇できるというシステム。
(ちなみに「Wicked」のチケットは110ドル)
雲行きの妖しい朝。 ふたりでアパートを出た。
駅に着いたら、ちょうど電車が行ったところだった。
次に来た電車に乗り、タイムズスクエアまで。
劇場に着いたらもうキャンセル待ちの列はできていた。
開演2時間15分前。
でもそんなにめちゃくちゃな列じゃない。
いけるかも、と直感。
まきちゃんをその列に残して、私は劇場の入り口に行き、
ラッシュチケット応募の手続きを。
開演2時間前。
抽選会が始まる。
マチルダに祈る。
私は、
前の晩から特別な祈りを捧げていた。 朝も。 電車の中も。 抽選の場でも。
祈り続けていた。
抽選会が始まってすぐ、 きた! あの「感じ」
魔法が効いた!とわかる、あの感じが。
虹色の螺旋が見えて、祈りが聞き届けられたことを実感した。25ドルでチケットゲットだ!
なのに。
外れた。 ? 私の名前は呼ばれなかった。 おおっ(泣)
とぼとぼと、しょんぼりしきってまきちゃんのところに戻った。
ふたりとも無言。
開演1時間前。
劇場のボックスオフィスの窓が開く。
わあーっ(喜) キャンセル!出たんじゃないのぉー!ちょっとぉー!
すいすいと列が動いて、みんな110ドル払ってチケットを手にしていく。
と、
私のふたり前で、
おわった。 ..........。 ボックスオフィスの窓はまたボンと閉まった.....
がっくり。
相当悲しそうな顔を私はしたのだと思う。
私の前に並んでいたおばあさんふたり組がなぐさめてくれた。
でも英語だから何言ってるかわからない。
聞き取れたのは「stay here. you get a chance」
...なんでチャンスよ?
「really?」と尋ねたら「Maybe」と答えたおばあちゃん... めいびー、か。
うう...(泣)
脳裏に、あの行っちゃった電車の映像が浮かんだ。
あれに乗ってたら... 今もうチケットを手にしてたかも。あと数人分早く並べて。
でも、さっきたしかに
見たのに。見たのに! 虹色の螺旋!
その時「そぉよ」と、マチルダの声。
ソオヨ...
開演15分前。
ボックスオフィスの窓がふたたび開いた。
「two tickets!」
あー!おばあちゃんたち! 飛び上がって喜んでる。よかったー!
が、しかし。 また閉まる、窓。 ボン。 .....
おばあちゃんはこちらを振り返り、ウィンクして「good luck」と言って去って行った...
今にして思えば、あれは幸運のおまじないだったような。
あのふたりは、本物の魔女だったように思う.....
開演10分前。
また窓が!
「two tickets!」
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜っ!
まきちゃんと窓口へ駆け寄る。
「fifty dollar」
と言われて「え?」と驚く私達。 フィフティって。 いくらよ?
50?
プライス表を見たら、たしかに50ドル席があって、でもそれは2階席の一番後ろ。
うーん。(迷)
魔女が、....豆粒くらいにしか見えないんだろうか?
どうしよう?
という目でまきちゃんを見たら
「でももう取れないかもよ。マメでも観とくべきなんじゃ?」と言われた。
そしてさっと50ドル出して2枚チケットを受け取ったまきちゃん。
慌てて私も50ドル札を窓口へ。
そしたら「No. that's all」と言われてびっくり。 え? てことは?
ひとり25ドル?
なんでよ?
開演5分前。
いったい何が起ったのかわからないまま、私達は走る。
劇場に入る。
席は、席はどこ? 早くしないと始まる!
スタッフの誘導に従って、わたしとまきちゃんがついた場所は。 なんと。
一番前の、ど真ん中の席だった。
なんでー? どーしてー? びっくりしている間に幕が上がった。
ブロードウェイの舞台は素晴らしく、なにもかもがきらびやかで夢のようだった。
役者達はもはや人間には見えなかった。
みんなが神様のようだった。
魔女エルファバ役の女優も本当に素敵だった。 あの歌声........!
自分の持つ力を使いこなせず、恐れてばかりいるへっぽこ魔女から
次第に訓練を重ね、自由自在に魔力を操る、立派な偉大な魔女へと成長していくエルファバ。
帚で空を飛ぶシーンもよかったけど、
グリモアを読む時の仕草といったら! あああっ!(感動)
ラスト近く、
天上から虹色の光が螺旋に降りてきて、エルファバが空高く舞い上がるところでは、
涙があふれた。
マチルダに感謝してもしきれない。
すべては、天の計らいだと感じる。
こんな素晴らしい奇蹟を私に見せてくれて、ほんとうにありがとう。
カーテンコールの時、私は力いっぱい魔女エルファバにエールを送った。
エルファバー!
エルファバー!
あい らぶ えるふぁばぁーーーーーーっ! と叫んだ。
出演者が全員、一瞬ぎょっとしてこちらを見た。(笑)
でも私は叫び続けた。 もう止まらない。
エルファバは、何度も私を見てくれて、最後に投げキッスをくれた。
視線が合った時。
心の深い場所でコンタクトできたことがわかった。 人と人が、繋がる瞬間。
幕が降りてから、私はわあわあ泣いてしまい、まきちゃんはそれを見て笑っていた。
(私はいっぱいいっぱいで泣いたけど、あんな時に笑ってるまきちゃんは凄いと思った)
泣きながら、またあの行っちゃった電車がちらりと浮かんだ。
行っちゃって、よかったんだ、あれは。
もしあれに乗っていたら、このチケットは手にできなかっただろう。
この席は、
あと少し前でも、少し後でも、
だめだった。
今私の歩いてる、この道しか。
私の人生は、私のために、神様が、
いつだって完璧なシナリオを用意してくれているんだ。
それを「選ぶ」ことさえできれば。
いつだって受け取れる。
しかし、なぜ25ドルだったのかは? 今もナゾ。
(笑)
マチルダが、虹色のなかで踊るのが、見えるだけ。
劇場を出たらものすごい嵐で、雷がごごごん!と。
それがまた、なんだかとても素敵だった。すてきなきぶん、になった。
私はこうして素晴らしい宝を手に入れた。
チケットが、とか
観れた、とか
単にそういうことだけではなく。
生きていくうえで、なにか、たいせつなこと。 とても、たいせつな。 なにか。
ニューヨークは魔法時間が流れてる。
それがわかる自分に、なったよ。
へっぽこ魔女、ニューヨークで本物の魔女に会う、の巻き。(笑)
「Wicked」のポスターには、とても心惹かれて、
どうしてこんなに好きかと思ったら、
マチルダと私の関係を表しているからだと気づいた。
そう。わたしたちはこんなふう。 いつもいつも。 こんな感じ。